出典:月刊「商工会」2016年7月号、P31~33、発行元 全国商工会連合会
名品物語 GOOD PRODUCT STORY vol.2 有限会社かわば(群馬県川場村)

ひらめきと友情が咲かせた、米の花

夏バテ予防にストレートで飲むのはもちろん、凍らせてシャーベットにしたり、豆乳や果汁で割ってオリジナルドリンクにしたり

■村のブランド米を"飲む糀"に

 "飲む糀"と聞いて、「糀が飲めるの?」と、思った方がいるかもしれない。実は、飲む糀とは甘酒のこと。「雪ほたかの飲む糀」の生みの親である有限会社かわばの遠藤淳社長は、展示会や試飲販売などで消費者と直接会話した実体験から、このネーミングに行き着いたという。

 美しい響きの商品名と、ほのかにオレンジがかった乳白色。それを引き立てる和風のラッピングには風雅な趣がある。そして、飲んだ瞬間に広がる、懐かしさと優しさ。さらっとした飲みやすさもいい。酒粕ではなく、米糀を発酵させた甘酒であるため、ノンアルコール・糖類無添加で、子どもでも飲める味と口当たりの良さが特長だ。
 
 原料は川場村のコシヒカリ「雪ほたか」。"幻の米"とも呼ばれ、米・食味分析鑑定コンクール・国際大会(米・食味鑑定士協会主催)で、8年連続金賞を受賞した。そのブランド米・雪ほたかを糀にし、川場村産うるち米と発酵させて完成したのが、「雪ほたかの飲む糀」である。

■青年部活動で新商品開発のヒントを発見

 この商品は、遠藤社長のひらめきから誕生した。ヒントは、商工会青年部活動の研修先で手にした米糀製の甘酒だった。「瓶を逆さにすると、米粒が舞って、まるで雪が降ったようにきれいでした。これを雪ほたかでつくったら面白いかもしれない」。

 川場村商工会青年部部長を経て、平成19年から群馬県商工会青年部連合会の役員を歴任し、23年には同県青連の会長に就いた遠藤社長。各都道府県の青年部幹部らとの研修・視察をとおし、活動の幅と人脈が大きく広がっていた。「同世代にこんなにすごい経営者の仲間がいる。自分はお山の大将だった」。そんな刺激を受け、以前にも増して家業や、地域の諸課題に向き合っていた頃のことだ。

 ちょうど、村でも雪ほたかのブランド化が始まっていた。

■未知の分野にチャレンジ

 しかし、かわばの本業である電子部品製造とは全く分野が異なるため、何をどうしていいのか見当もつかない。そこで、群馬県商工会連合会の担当者に相談したところ、23年度の「全国展開支援事業」として商品開発を行うことに。同県連合会と川場村商工会の支援のもと、製造委託先企業とともに、約1年をかけて試作品をつくりあげた。

 翌、平成24年には、同村の6次産業課推進室をはじめ、各方面からの協力を得て、「雪ほたかの糀酒」が完成。遠藤社長が最初に思い描いた"米粒が舞う"ノンアルコール甘酒だった。

 幸い、村には"関東好きな道の駅"に5年連続で1位に選ばれた実績をもつ「道の駅 田園プラザかわば」がある。集客力ある道の駅での試飲販売で自信をつけた遠藤社長だったが、致命的な課題を抱えていた。

■商品力を磨き続けた先に、名品が生まれる

 「儲からない……」

 評判も売れ行きもいいのに、利益が一向に上がらない。理由は売り上げの70%が委託加工費に消えてしまうためだ。そこで考えたのが、自分で商品をつくることだった。「料理は好きなほうですし、試飲販売で直接お客様からいただいた意見を反映させたいと思ったんです」。

 加えて、長年かわばが従事してきた下請け業務と異なり、「すべて自分の意思でつくれることが、こんなに楽しいのかと」。本業の合間に、米と糀の割合を少しずつ変え、よりおいしい味を見つけ出すという、まさに"研究"に没頭した1年間。「今、振り返ると、試行錯誤した日々が一番の苦労でしたが、商品づくりの実感と喜びに支えられて、今の味に辿り着きました」。

 同時に、雪ほたかの糀づくりを地元の酒造会社・土田酒造に協力してもらい、自社製造へ移行するための下準備が整った。

 平成24年11月には、全国商工会連合会主催の「むらおこし特産品コンテスト」で全国商工会連合会会長賞を受賞。その栄誉に甘んじることなく、商品に磨きをかけた。
 
 例えば、群馬県青連が開催した「第1回グルメグランプリ」の準備をしていた時のこと。川場村商工会青年部は、糀酒で杏仁豆腐をつくろうとしていた。その際、ある部員の「米粒を潰してみたら?」という発案を試したところ、予想以上に口当たり滑らかに仕上がったという。それをヒントに、雪ほたかの糀酒にも試したことが、さらりとした飲み口が好評な現商品へのグレードアップにつながった。
昨夏、デビューしたミニサイズ(120ml)

■利益を出すため、自社製造に切り替え

 平成25年8月6日、遠藤社長は満を持して商品名も中身も装いも一新した「雪ほたかの飲む糀」を発売した。同日の地元紙・上毛新聞の経済面には、"米の甘みを味わえる逸品"として紹介された。「これも戦略の一つで、取材された記事が掲載される日に発売日を合わせました」と、大らかに笑う。

 販売は田園プラザかわばを中心に、25年度は3000本、26年度1万本、27年度1万3000本を売り上げ、快調に伸ばしている。自社製造に切り替えたことで、利益率が格段に上がったうえ、品質の安定した商品づくりができるようになった。

■商工会、地元とともに――

 遠藤社長は現在、川場村商工会の副会長を務めている。林業を営んでいた祖父も、製造業を起こした父も、かつて商工会の会長を経験し、母は現役の女性部部長だ。まさに、商工会とともに歩んできた一家だが、苦難の時期を耐え、新しい道を切り開いてきたからこそ、今がある。

 昭和48年、父の遠藤次男会長が太陽誘電の下請けとして創業。経営は順調だったが、平成12年、親会社の海外生産移管により受注はゼロに。60人いた従業員を全員解雇し、新設して間もない工場も閉鎖に追い込まれた。
「その後1~2年は父と200社以上を回り、どんな小さな仕事でもやってきました」

 そう述懐する遠藤社長は、1社に100%依存する下請け企業の危うさと脆さを思い知る。「3社以上の取引先をつくらなければ」と、新たなビジネスの種を探し求め、ようやく巡り会えたのが飲む糀製造事業だった。
 現在は、電磁クラッチコイル製造、プラスチック検査・梱包業を主とし、従業員40人を抱える。飲む糀づくりは第3の事業だが、大きな可能性がある。

 それを証明したのが、平成26年1月に届いたビッグニュースだった。観光庁が認定する「世界にも通用する究極のお土産」ノミネート商品に、「雪ほたかの飲む糀」が認められたのだ。「視野に入ってきた世界を目指すことが、川場村を知ってもらうチャンスにもなる」。
 そう語る遠藤社長のまなざしは、世界を捉えていた。

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