出典:月刊「商工会」2016年8月号、P31~33、発行元 全国商工会連合会
名品物語 GOOD PRODUCT STORY vol.3 株式会社もちむぎ食品センター(兵庫県福崎町)

それは、常識を覆すことから始まった

夏は冷たく、冬は温めて。もち麦の香りと食感を楽しみながら、麺つゆでシンプルに食べるのが一番

■注目のヘルシー素材もち麦

 そばでもない、うどんでもない、もちっとした新しい食感――。ニッポンセレクトの商品ページにあるキャッチコピーのとおりの味わいが楽しめるのが、今回ご紹介する「もちむぎ素麺 福の糸」である。色は蕎麦に近く、麺の細さは素麺、もっちりとした食感はうどんのような。細くても弾力性があるため、ツルっとしたのどごしがあり、夏の暑さを忘れさせてくれる。
 
 そのモチモチ感は、主原料であるもち麦特有のもの。大麦の一種で、皮のないハダカムギに属するもち麦は"もち性"をもつ麦で、普通の麦よりモチモチとした軟らかさと粘り気が強いという。
 
 昨今、テレビ番組などで注目を浴びているが、その理由は水溶性食物繊維βグルカンを多く含んでいるから。整腸作用、血中コレステロールを下げるなどの働きがあるうえ、ダイエットにも効果的だと、幅広い世代から熱い視線が注がれている。

 そんなもち麦を麺づくりに生かしているのが、播州福崎の「もちむぎ麺」。製造・販売を一手に担っているのが、平成2年、福崎町、福崎町商工会、JA兵庫が共同出資して設立した第3セクターの株式会社もちむぎ食品センター(橋本省三代表取締役)だ。もちむぎ麺開発の歴史は30余年前に遡る。

■特産品づくりを機に、もち麦栽培が復活

もちむぎ食品センターの植岡進也専務(右)と、松井永敏総務部長
 中国自動車道と播但連絡道路が交差する交通の要衝にありながら、特徴ある農産物や特産物がなかった福崎町では、昭和58年、町の特産品づくりを検討し始める。そのなかで、隣県・岡山の農産物試験場でもち麦があることを知り、「我が町で復活させてみよう」と試作栽培をスタート。

 同町では昭和初期からもち麦がつくられ、戦後は黒紫色の麦を粉にして団子にして食べる風習があったという。食生活の変化などで昭和30年代には衰退し、一時は途絶えたが、61年、特産物づくりの本命として白羽の矢が立てられたことをきっかけに、もち麦栽培は復活する。翌62年には収穫したもち麦を使った麺、パン、うどん、ビールなどの研究開発に着手。63年にはもち麦麺(半生)が完成し、製造を開始した。

■ありえなかったことにチャレンジ

もち麦麺を中心に、もち麦製品が並ぶ売店コーナー。時間帯によっては、ガラス越しに製造工程の見学もできる
 「今の成功があるのは、よそが真似できないものをつくったからです」
そう述懐するのは、同社の植岡進也専務取締役だ。当時はJAの職員として、町の一大プロジェクトに関わっていた。

 「だいたい大麦から麺をつくること自体、考えられないことやった。まず、粉にすることが難しい。それに、大麦にはグルテンが含まれていないから、お湯を加えてもひっつかないし、伸びないし。それでも3年かけて開発しました」

 町、商工会会員の麺業者、JA、大手製粉メーカーの4者の共同開発で、もち麦、小麦粉、塩などの配合比率を細かく変えながら試行錯誤する日々が続いていた。難関だった製粉工程は昔ながらの石臼製法を採用。ゆっくり挽くことで熱が出にくく、栄養分、香り、風味を損なうことなく、粘り気もある粉に仕上げることができた。

 最終的には食感、製造のしやすさ、保存などを重視し、商品化。3年間を費やして開発した一連の製法は、当時の商工会会長の提案で特許を取得した。また、平成6年には、ふるさと全国食品フェアで、農林水産省「食品流通局長賞」を受賞。麺にはならないと考えられていたもち麦を使った製品化に成功し、その素材の特長を余すところなく引き出した点、生産から商品化までをすべて地元で行っていることが評価された結果だった。

■幾多の苦難を乗り越えて

 当初、販売は商工会が中心になり、イベントなどをとおしてPRに努め、それなりに売れていたというが、会社設立後は、もちむぎ食品センターがその任を引き継いだ。

 平成7年にオープンした「もちむぎのやかた」は、もち麦の生産者である「もち麦生産組合」や、加工品開発を手がける「福崎加工研究会」などと連携しながら、製造・販売・商品開発・飲食・PRという、もち麦に関するすべての拠点となった。

 しかし、「去年ぐらいからやっと黒字になりました」と、植岡専務が明かすように、これまでの来し方は決して順調なことばかりではなかった。

■本来の農工商連携体制を整えていきたい

 もちむぎのやかたの前には「辻川山公園」が整備され、その奥には同町出身の民俗学者・柳田國男の生家もある。「河童の河太郎と河次郎伝説」と、同町が取り組む"妖怪によるまちおこし"を具現化した公園は、
"水中から顔を出す河童"や"小屋から飛び出す天狗"が定期的に出現する観光スポットになっている。昼食をとるために、もちむぎのやかたを目指してやって来る観光客やバスも多く、平日でも人出が絶えない。

 館内はレストラン、売店・お土産コーナー、展示コーナーのほか、ガラス越しに製麺・乾燥・加湿・梱包の各製造工程が見学できるようになっている。物販品は9割以上がもち麦麺ともち麦製品という潔さが際立つ。ラインナップは、もちむぎ素麺・福の糸をはじめ、もちむぎ麺(半生麺・乾麺)、もちむぎ煎餅、もちむぎ茶、もちむぎカステーラ、平成20年の全国菓子大会博覧会で「橘花栄光賞」を受賞したもちむぎどら焼きというシンプルさだ。

 福の糸は、製法的にはもち麦麺と同じだが、手延べでより細く長く延ばす工程では自重で切れることもあり、技術を要する。短時間で茹で上がる素麺は、調理の手軽さと食べやすさが特長。14年の発売以降、売り上げを順調に伸ばしている。

 現在、町産のもち麦生産量は年間60t。「これ以上増える可能性は少ないが、地域の特産品づくりとして、あるものを生かすという本来の農商工連携の体制を整備、強固にしていきたい」。福崎町のもち麦加工事業にもっとも近くで携わる二人は、そう口を揃えた。
純和風の「もちむぎのやかた」

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