出典:月刊「商工会」2016年10月号、P33~35、発行元 全国商工会連合会
名品物語 GOOD PRODUCT STORY vol.5 有限会社浅田漆器工芸(石川県加賀市)

若い感性×"木地の山中"の技

パスタはもちろん、スープやサラダ、チャーハンなどにも合わせやすい「ウッドプレート」。材質は栓

■漆器でパスタやカレーを食べたい

 英語で"japan"と訳される漆器。日本の伝統工芸である漆器には、艶めく黒や朱の真塗り、蒔絵を施したきらびやかな印象を重ねる方が多いかもしれないが、木目の見える軽やかさと薄さ、親しみやすい形のこの「ウッドプレート」も漆器である。

 手がけたのは、石川県南西部の山中温泉で山中漆器を製造・販売する、有限会社浅田漆器工芸の浅田明彦専務だ。

 「普段の暮らしのなかで木の温もりが伝わるような、身近に使えるものをつくり、若い世代にもっと漆器を知ってもらいたい」と、同社に入社した平成22年から取り組み、約1年で完成させた"デビュー作"でもある。
「きっかけは、大好きなパスタやカレーライス用のお皿を漆器でつくりたいと思ったことでした。漆器なら軽くて割れる心配もないし、フォークやスプーンが当たってもカチャカチャという音もしないのでいいなぁと」
 高校卒業後、「とくになりたいものもなく、父に言われるがままに」京都伝統工芸大学校の漆芸コースに入学したが、次第にその奥深さ、おもしろさに引き込まれていく。2年間、漆器づくりの基礎を勉強し、なかでも漆の塗りや蒔絵を習得するうちに「形をつくってみたい」という思いが強くなっていた。

 帰郷後、山中温泉にある石川県挽物轆轤技術研修所でさらに2年間、挽物の基本を学び、平成22年、家業に入った。

■軽さと持ちやすさを追求し、試行錯誤の日々

 真っ先に取り組んだのが、パスタ用のプレートだった。実は、研修所での修業時代、そのベースとなるプレートをつくっていた。リム(皿の縁にあるつば)も高台もないサラダボウルのような形だったが、そのイメージをどのように商品化していけばいいのだろうかと考えながら臨んだのが、石川県が主催する「提案力育成講座」だった。

 講座ではまず、コンセプトやターゲットなど、商品づくりの骨組みを学んだ。つくってから誰に売ろうかと考えるのではなく、どういう人に向けてアピールし、買ってもらうのかを最初に考えるべきという鉄則を学んだ浅田専務は、30~40代に照準を定め、本格的な試作に取りかかった。

 まず、ラフスケッチを図案にし、方眼紙に実寸で起こす。それをもとに、木地師に木地を挽いてもらいながら形状を確認し、微妙な調整をする。その繰り返しだったが、途中で形や大きさなど、根本的なデザインを何度も見直すことになった。

 最初のデザインは、リム部分を含めた直径が30㎝ほどある大皿で、さらにリムの縁がせり上がっていた。「大きすぎて使いにくいうえ、デザイン的にも良くない」と、デザイナーのアドバイスのままに修正した次の試作品は、少し小ぶりにした直径24㎝。リム部分を約5㎝と、やや幅広にとった。スタイリッシュなプレートになったが、パスタなどの料理を盛る中央部分が小さくなりすぎ、普段使いに向かないものになってしまった。「何か違う……」と、3度目は自ら考え、悩みながら試行錯誤を重ねた。

 とくにこだわったのが、縁の薄さだった。最終的に5㎜になるまで妥協せず、木地師と二人三脚で納得のいくプレートに仕上げた。それが、直径24㎝、高さ3・5㎝、リム部分4㎝という形状にして、わずか150gという現在のかたちだ。

 改良したのはデザインだけではない。手にしたとき、もちやすさを左右する高台の外側部分を、緩やかなカーブから角度をつけた急カーブに変えたり、実際に使ったうえで、リムの端に玉縁を付けることによって指でもちやすくするなど、美しさと実用性の両面からブラッシュアップを続けた。苦労の末、浅田専務が商品化したウッドプレートは、同社の新しい顔として発表、発売された。
 
 「斬新だね」「ものすごく軽い」「木でできているなんて驚き!」など、あちらこちらで高評価の声が聞かれた。この軽さと薄さは木地師のなせる技でもある。
浅田漆器工芸の浅田孝社長(左)と、浅田明彦専務
まるでマカロンのような形とパステルカラーが目を引く「うるしマカロン」
工房兼ショップ「うるしの器 あさだ」。浅田孝社長が平成10年、使い手の声を直接商品開発に生かしたいとオープン

■山中漆器ならではの伝統の技

 石川県内には3つの漆器産地があり、「木地の山中」「塗りの輪島」「蒔絵の金沢」と、それぞれに特徴がある。山中漆器の真価が木地にあるといわれる所以は、そのルーツが木地師にあるからだ。安土桃山時代の天正年間(1573~1592)、越前国から山伝いに入国し、住み着いた木地師集団が、江戸時代中期に伝わった轆轤挽物の技術を磨き、広めたとされる。

 産地としての発展とともに、技は進化し続け、轆轤を挽きながら木地の表面に鉋で模様を付ける"加飾挽き"の技芸を生んだ。わずか3㎜の間に十数本の細い線を描く「千筋」、無数の稲穂が垂れる「稲穂筋」など、20種類以上ある加飾や、木目の間が透けて見えるほどの「薄挽き」などを施す際には、模様や技法ごとに使用する鉋を変えるという。そして、その鉋をつくるのは木地師自身だ。

 まず、自ら鍛冶を行い、オリジナルの鉋を手にすることが、木地師の第一歩で、ベテランなら50本はもっているという。道具づくりから独創性は始まっており、製作のあらゆる部分に関わる重要で、かつ、木地の山中を支える他に類を見ない技法である。

 さらに、"山中式"と呼ばれる轆轤の駆動システムも独自の技法のひとつ。こうした技術の高さと、全国の漆器用木地生産をほぼ一手に引き受ける「山中漆器木地協同組合」の出荷量が誇るように、山中は日本一の挽物産地だという背景がある。
生漆を摺り込み、余分な漆を拭き取る「拭き漆」工程。乾燥とその作業を数回繰り返すと透明感が出る

■キュートな漆器で話題づくり

 同社も元々は木地師の家系だ。浅田専務の父・浅田孝社長は3代目を継いだ後、漆器をプロデュースする"商人"として、市場のニーズを捉えつつ、日常生活のなかで身近に使える木の器を広めてきた。その代表作がニッポンセレクトでも好評な「天然木お茶ミル」、約20年前に手がけた「欅茶入れ」シリーズ。柿や栗、たけのこをかたどった茶入れである。

 当時、浅田社長が全国の展示会などで感じた「山中の轆轤技術を生かしながら、もっと個性のあるものをつくらなければ」という思いをかたちにしたものだ。その後、「欅 りんごっ子シュガー入れ」など、女性向けのかわいさのあるアイテムも少しずつ増やしてきた。
 
 そんな父の手がけた"かわいい商品"にインスピレーションを得た浅田専務が挑戦したのが、「うるしマカロン」。その名のとおり、洋菓子のマカロンを題材にしたキュートな小物入れで、ローズ、レモン、バニラ、抹茶、ミントの5色が揃う。平成26年に発表すると、「それまでの『お茶ミルの浅田さん』から『マカロンカラーの浅田さん』と呼ばれるようになりました」と、親子で笑う。

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